繰延資産(税理士試験、法人税法)
繰延資産は、減価償却などと同じく、試験はもちろん、実務でもおそらくすべての人が関わるような論点ではないかと思います。
今回はこの繰延資産についてまとめてみました。
繰延資産については、その内容がどの繰延資産に該当するか判定でき、その支出の効果の及ぶ期間を計算し、償却限度額を計算することができれば解答できます。
どの繰延資産に該当するか判定できることが解答のポイントとなりますので、ここではその理解を深めていきましょう。
1.繰延資産とは
法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出日以後1年以上に及ぶもので一定のものをいいます。ただし、資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除きます。
会社法上の繰延資産+税法独自の繰延資産
会社法上の繰延資産…創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債等発行費
税法独自の繰延資産
公共的施設等の負担金の負担金…商店街の共同アーケードなど
資産を賃借するための権利金等…賃貸借契約時の礼金など
役務の提供を受けるための権利金等…ノウハウの頭金など
広告宣伝用資産を贈与した費用…飲食店における宣伝用ショーケースなど
その他自己が便益を受けるための費用…同業者団体の加入金など
会社法上の繰延資産に税法独自の繰延資産を加えたものが税法上の繰延資産となります。
そのため、税法上の繰延資産の方が会社法上の繰延資産よりも広い範囲の内容となります。
また、会社法上の繰延資産と税法上の繰延資産は、償却期間という点でも異なります。
2.繰延資産の償却期間
会社法上の繰延資産と税法上の繰延資産で償却期間が大きく異なります。
会社法上の繰延資産は任意償却となっており、損金算入のタイミングはその法人の任意となっています。
一方、税法上の繰延資産は均等償却となっており、その償却期間の主なものは次の通りとなります。
基本的にはグレーの箇所がいずれか短い年数を計算することが必要な箇所になりますが、その他でも5年や存続(契約)期間となるものについては、一定の場合に該当すれば、計算が必要な箇所になります。
償却期間の考え方として、負担者専用などその支出の効果を多く受けることができる場合には支出の効果の及ぶ月数が長くなると考えられ、償却期間も長くなります。
もし、解答の際に償却期間が思い出せなくなったときには、この考え方をヒントにして償却期間を思い出せるようにしましょう。
3.繰延資産の償却限度額の計算方法
繰延資産の償却限度額の計算方法は、次の通りとなります。
(1)任意償却の繰延資産
繰延資産の額-既に償却した金額
(2)均等償却の繰延資産
繰延資産の額✕その事業年度の月数/支出の効果の及ぶ月数
4.解答例
~通常パターン(均等償却)~
[繰延]
(1)期間
X年✕X/X=X.X年→X年(一年未満切捨)<X年 ∴X年(短い年数)
(2)限度
繰延資産の額✕その事業年度の月数/支出の効果の及ぶ月数=XXX
(3)超過
会社上の償却費-(2)=XXX
5.出題のポイント
出題のポイントとしては、次のようなものとなります。
①どの繰延資産に該当するか判定できているか。
②繰延資産として処理しなくてよいものを理解しているか。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
①どの繰延資産に該当するか判定できているかですが、これは繰延資産の区分を理解して解答することが必要となります。まず、大きな区分として、任意償却と均等償却というものがあり、さらに均等償却は5つの区分に分かれます。その5つの区分は、施設の負担金、資産の権利金等、役務提供の権利金等、広告宣伝用資産の贈与費用、その他の費用です。この大きな区分を判定できるようになることが必要です。その上で、この5つの区分の中でどの償却期間を使うか判定することができれば、解答が可能となります。区分が細かく覚えることが多いですが、覚えていれば解答できる内容となりますので、しっかりと覚えていくようにしましょう。
償却期間の計算の仕組み上、施設の負担金(共同的施設-協会本来用)は10年、施設の負担金(共同的施設-一般公衆共同用)は5年となりやすいので、忘れてしまった場合には、この年数で計算するということも一つの手かも知れません。ただ、耐用年数が短いものについてはこの限りでないので、耐用年数が短い場合には注意して解答しましょう。
②繰延資産として処理しなくてよいものを理解しているかですが、少額繰延資産などへの理解が必要です。資本的支出の判定などと同じく、繰延資産についても20万円未満の少額なものについては損金に算入可能となっていますので、こちらに該当するものは繰延資産としての計算を行わずに、損金に算入しましょう。20万円未満の少額なものとしては、広告宣伝用資産の贈答費用で陳列だなを支出したケースなどが該当しやすいかと思いますので、少額繰延資産に該当しないかどうか判定を行いましょう。また、簡易な施設の負担金についても損金に算入可能となっています。こちらは街灯の費用を支出したケースなどが該当しやすいかと思いますので、こちらも忘れずに損金に算入しましょう。
6.メモ
(法人税基本通達8-1-4)
令第14条第1項第6号イ《公共的施設等の負担金》に規定する「自己が便益を受ける共同的施設の設置又は改良のために支出する費用」とは、法人がその所属する協会、組合、商店街等の行う共同的施設の建設又は改良に要する費用の負担金をいう。この場合において、共同的施設の相当部分が貸室に供される等協会等の本来の用以外の用に供されているときは、その部分に係る負担金は、協会等に対する寄附金となることに留意する。(昭55年直法2-8「二十八」、平19年課法2-3「十八」、平19年課法2-17「十六」により改正)
(法人税基本通達8-1-13)
簡易な施設の負担金の損金算入
国、地方公共団体、商店街等の行う街路の簡易舗装、街灯、がんぎ等の簡易な施設で主として一般公衆の便益に供されるもののために充てられる負担金は、これを繰延資産としないでその負担金を支出する日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。(昭55年直法2-8「二十八」により改正)
(関連する調整項目)
・繰延資産償却超過額 XXX(別表四 加算留保)
・繰延資産償却超過額認容 XXX(別表四 減算留保)
繰延資産についてまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか。
繰延資産は他の項目よりも出題パターンが多くないように思いますので、しっかりと覚えることができていれば解答できます。
解答できるように、繰延資産の区分をしっかりと覚えていきましょう。